争族(=相続争い)という言葉が一般的になりましたが、実際にどれぐらいの争いがあるのでしょうか。
2020年の最高最高裁判所の司法統計によれば、「遺産の分割」に関する審判と調停の合計件数は約14,600件でした。同年の死亡者数は約137万人なので、割合にすると(約1.1%)ということになります。
ひょっとすると、イメージしていたよりもトラブル事例は少ないかもしれません。しかし、審判や調停というのは、いわゆる「裁判所にお世話になった」案件であって、このほかに裁判所に持ち込まれなくても弁護士に仲裁に入ってもらったケースや、当人同士で解決したケースもあるわけですから、潜在的的なトラブルは、かなり多いことが想像できます。
争族のパターン
争族といっても、その形は千差万別ですが、要因については、おもに以下のように分類できるように思います。
1.法定相続人の範囲が不明確
・知らない相続人が出現した(前妻の子どもや認知した子ども)
・像族人の配偶者が遺産分割に介入
2.相続財産の範囲が不明瞭
・生前贈与が行われていた
・親族による療養介護などの貢献
3.相続財産の分割方法に問題あり
・遺言者による極端な財産配分
・遺産が不動産だけ
・真偽不明の遺言書
複雑な相続人関係を打開する方法
1.争族を最小限に抑えるひとつの提案
上記のように、争族にはいくつかの類型があり、その要因については、被相続人や相続人が事前に対策できないような場合もあります。しかし、そのようなケースにおいて、事前に争いを最小限に抑える提案があります。それは、生命保険を利用した相続対策です。
2.生命保険は遺産ではなく固有財産
現預金や不動産などの財産は、遺留分減殺請求の対象財産となりますが、死亡保険金は原則、その対象にはならず、受取人の固有財産です。したがって、受取人を誰に指名しておくかによって、争族対策になりえます。
ある家庭における相続のケース
生命保険が、どのように争族対策として有効に働くのでしょうか。具体的に、ある家庭を題材にして考えてみましょう。
1.妻による争族対策
子どもが1人の夫婦がありました。しかし、この夫婦の関係性は円満とはいえないようです。夫には愛人がおり、どうやら子どもを成しているらしいことを、妻は知っていました。
そこで妻は、最悪の事態を想定してある対策を取っていました。妻は夫の生前から、受取人を妻と実子とする生命保険(1億円)を夫にかけていたのです。ちなみに、月々の保険料は、夫の銀行口座から支払われていました。
2.法定相続分はこうなる
夫の死後、死後認知した婚外子が出現したことで、遺産相続は一気に争族へと発展する気配をみせました。死後認知によって、婚外子にも実子と同等の相続が認められます。
夫には現金と自宅不動産をあわせ、1億円の財産がありました。夫は遺言書を残していなかったので、遺産分割は法定相続分分によって分割がおこなわれます。
法定相続による遺産分割は、このような割合になります。
・妻…5000万円(50%)
・実子…2500万円(25%)
・婚外子…2500万円(25%)
3.生命保険があればこうなる
しかし、遺産のほかに生命保険があれば、状況がすいぶん違ったものになります。1億円の生命保険が、妻の固有財産として存在します。これにより3人の受取額は以下のようになりました。
・妻…1億5000万円(75%)
・実子…2500万円(12.5%)
・婚外子…2500万円(12.5%)
生命保険を加えた総額の割合で算定すると、婚外子に渡る遺産割合は(12.5%)に抑えることができました。受け取る遺産額に違いはないので、婚外子からの異論はありません。
あるいは保険金の受け取りを実子にしておくケースも考えられます。この場合も、婚外子に渡る遺産額は変わりません。
・妻…5000万円(25%)
・実子…1億2500万円(62.5%)
・婚外子…2500万円(12.5%)
生命保険による争族対策
生命保険を嫌う方も多いですが、このような争族対策としての使い方もあります。今回は妻による争族対策として紹介しましたが、妻や実子に相応の遺産を渡すための対策として、夫が自ら生命保険をかけるパターンも考えられます。
婚外子の存在や死後認知という事実に関しては、心の問題として、妻として納得できない感情が生まれるのは当然ですが、このような遺産分割を準備しておくことは、夫として、せめてもの償いになるかもしれません。
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